愛を待つ桜
「疑って悪かった、と謝罪するのか?」

「とんでもない! 俺は彼女との関係は否定してないんだぞ! ソレと、彼女の身持ちの悪さは別だ!」

「……そういうことだな」

「……どういうことだ?」

「聡、コトが夏海くんに絡むと、脳ミソも股間に移動するのか?」

「修!」


最早、グラスに入った飲み物がアルコールであれ、ウーロン茶であれ、聡には気にならなくなっていた。とりあえず一気に飲み干す。

如月もひと呼吸入れ、冷たいウーロン茶で気分を一新させ、


「なあ、ちょっとは考えてみろよ。誰のせい、とかは言うなよ。彼女と別れてすぐ、お前は他の女と結婚した。それも、彼女と付き合う以前に見合いした女だ。……婚約者のいる30男が、結婚前の火遊びに20歳そこそこの小娘を誑し込んだ挙げ句、妊娠させて捨てた。世間にそう思われても言い訳はできんぞ」


そんな如月の言葉に、聡は真っ赤になって抗議する。


「何を馬鹿な! 俺は智香には何もしてないし、結婚を決めたのは夏だぞ!」

「だが見合いをしたのはその前だろう? お前が彼女を信じないように、彼女もお前を信じないさ。夏海くんが仮にお前の言う通りの女だとしても、自分も遊んでたくせになんで私ばかり責めるんだ、と思ってるだろうな」


酔った頭でも如月の言い分は理解したようだ。
聡は空のグラスを睨み黙り込む。


「思い出してみろよ。お前が20代前半の女房と別れたころのことを。人に偉そうなことを言えるか?」


如月の知る範囲でも、自棄になって風俗店に出入りし、クラブで声を掛けた女と一夜の情事を繰り返していた。

それがちょうど、3年前の夏海と同じ歳のころだ。


「お前が彼女を責める限り、彼女も折れないだろうな。結婚したいと思うんなら、妥協は必要だ」


聡はひと言も言い返さなかった。


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