愛を待つ桜
「随分お金持ちそうな男だって聞いてるのよ。だったら、もっといい部屋を借りてもらったらどう? うちのコーポで、そういう商売されちゃ迷惑なのよ!」
「私は、司法書士として働いてます。決して、そんないかがわしい仕事はしていません!」
「未婚で子供を産むような女が、そんなちゃんとした仕事してるかどうか怪しいもんだわねぇ」
そのあからさまな偏見に、夏海はグッと言葉を呑んだ。
子供がお腹にいるときから、ずっと言われ続けてきた。
大学卒で資格がある、一流企業で重役秘書していた、どれだけ説明しても信用されない。
それどころか、面接官から『不倫でもしてクビになったんじゃないの?』と言われたこともある。
高崎所長の事務所に勤める前、少しの間だけ派遣で働いていたときも、何度となく既婚男性から誘われた。
“そういう女”だから安心して遊べると思うらしい。
「とにかく、風紀が乱れると困るの。来月中にここを出て行ってちょうだい!」
「待ってください、そんな急に……言い掛かりです!」
偏見を持つ人間には何を言っても聞き入れてはもらえない。
それはここ数年の経験で判っていた。
「私の仕事はちゃんとしたものです。資格証もあります。それをご覧いただけたら」
「年寄りだから、簡単に言いくるめられると思ってるんだろうけど……そうはいきませんからね!」
「そんなつもりはありません。でも、ここを追い出されたら困るんです。子供の保育園もこの近くで」
「あら、お友達のお宅にお世話になったらいいんじゃないの? それとも、奥様がいらっしゃる方なのかしら?」
「そんなこと……」
そのとき、大家の後ろのドアが思い切り開いた。
「私は、司法書士として働いてます。決して、そんないかがわしい仕事はしていません!」
「未婚で子供を産むような女が、そんなちゃんとした仕事してるかどうか怪しいもんだわねぇ」
そのあからさまな偏見に、夏海はグッと言葉を呑んだ。
子供がお腹にいるときから、ずっと言われ続けてきた。
大学卒で資格がある、一流企業で重役秘書していた、どれだけ説明しても信用されない。
それどころか、面接官から『不倫でもしてクビになったんじゃないの?』と言われたこともある。
高崎所長の事務所に勤める前、少しの間だけ派遣で働いていたときも、何度となく既婚男性から誘われた。
“そういう女”だから安心して遊べると思うらしい。
「とにかく、風紀が乱れると困るの。来月中にここを出て行ってちょうだい!」
「待ってください、そんな急に……言い掛かりです!」
偏見を持つ人間には何を言っても聞き入れてはもらえない。
それはここ数年の経験で判っていた。
「私の仕事はちゃんとしたものです。資格証もあります。それをご覧いただけたら」
「年寄りだから、簡単に言いくるめられると思ってるんだろうけど……そうはいきませんからね!」
「そんなつもりはありません。でも、ここを追い出されたら困るんです。子供の保育園もこの近くで」
「あら、お友達のお宅にお世話になったらいいんじゃないの? それとも、奥様がいらっしゃる方なのかしら?」
「そんなこと……」
そのとき、大家の後ろのドアが思い切り開いた。