愛を待つ桜
「それを言うな」


他の社員の感想も、正直に訳せばそんなところだろう。


「一条の親父さんには何て言う気だよ。妊娠した彼女と別れた挙げ句、とんでもない女と結婚して騒動起こしたんだ。叱られるくらいじゃ済まんだろう?」

「それだけじゃない。悠を実子だと説明することは……そういうコトだろう? で、智香との裁判の件だ。アレをどう説明すればいいのか判らん。それに、母はともかく、父は匡と夏海の関係を知ってるんだ」


3年前、夏海が退職して匡と彼女の縁談はなし崩しで終わった。

聡との関係を知らない実光は、夏海に対する失望を口にしたこともある。


「ああ、クソッ! 今思えば、余計なことを考えず、夏海と結婚しておけば良かった。そうすれば、こんな面倒な事にならずに済んだのに」


ポンポンと聡の肩を叩きながら、如月は笑う。


「結構なことだ。いいか、もう失敗は許されんぞ。彼女の逆鱗に触れて、逃げられるようなことだけはするな。ひとりじゃない生活に慣れたら、ひとりには戻るのは辛いぞ」

「判ってる。このひと月あまりで身に染みてる。もう以前には戻れないし、戻りたくもない」


ずっと逃げ回ることなどできない。
親子3人の生活に落ち着いたら、順に挨拶に行こう。
それまでには上手い言い訳も思いつくかもしれない。

夏海との結婚は、聡を楽天的な性格へと変えて行きつつあった。


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