愛を待つ桜
6月末、夏海たちは聡のマンションに引っ越した。

その翌日、午前中には外せない仕事があり、夏海は悠を『キッズスクウェア』の一時保育に預けた。
午後は部屋の片付けのため半休を取っている。

新しく悠を預けるところは、これまでの保育園とはまるで違った。

保育士の数も多く、安全面でもかなり行き届いている。
ウェブカメラで保育中の様子まで確認できるくらいだ。
同じヒルズ内で働く夏海にすれば、休憩中に会いに行くこともできる。最高のロケーションであった。

但し、基本の保育料だけでこれまでのなんと5倍。
場所が場所だけにこの数字が普通なのだろう。とはいえ、『給料の半分が飛ぶわね』夏海は思わずそんな言葉をこぼしてしまう。


「幾らかかっても構わんだろう? 君が働くのは生活のためじゃない。だが、来年か再来年には幼稚園だ。それまでには家を建てて落ち着く場所を決めよう」


ひとりで迎えに来てそのまま帰る予定が、なぜか聡も一緒だった。


「そう、ね。ヒルズは、子供が暮らすには最適な場所じゃないもの」

「ああ、そのころには、悠に弟か妹ができてるかもしれないしな」

「聡さん」

「可能性はあるだろう? 現に昨夜だって……」


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