愛を待つ桜
10分後、ちょうど昼食から帰ってきた双葉に悠を預け、4人は所長室の来客用ソファに向かい合って座っていた。


「こんな形で、再び君に会うことになるとは、思わなかった」


実光の、とても好意的とは言い難い声色に、夏海は身を竦める。

一方、あかねは、


「そうですよ! あんな可愛い子を授かりながら……どうして、ちゃんと結婚されませんでしたの? 聡さんも聡さんですよ!」


こちらは、夏海に対する怒り、と言うより、悠の顔を見た瞬間に聡の子だと判り、これまで知らされていなかったことへの憤りがほとんどに思える。


「聡さん……あなたがこういうことをする男性だとは思いませんでした。もっと、誠実で責任感のある方だと思ってましたのに。私たちが孫を欲しがっていたことはご存知でしょう? 跡継ぎに寄越せだなんて、非道なことを言うつもりはありませんよ! 知らせてもくれないなんて……あんまりです!」


どうやら完璧に、如月が予想した『愛人として囲っていたけど、離婚のほとぼりが冷めたので入籍しました』といった誤解をしているようだ。


「母さん。何か誤解してるようだが……」

「誤解じゃないというなら、判るように説明してちょうだい!」

「ああ、もちろん、そのつもりです。でも」

「あの子はあなたの子供でしょう! あなたの幼いころに生き写しです!」

「だから、さっきからそう言って」

「2……3年前の12月と言えば、あなたがあの病院の娘さんと結婚したころじゃありませんか? 同じ時期に産まれているのはどういうことなのかしら?」

「ええ、ですから……」

「それに、あの騒ぎは一体なんでしたの? あなたには子供がいるじゃありませんか! しかも、今になって夏海さんと結婚なんて! そんな無責任な……子供が可哀想だとは思わなかったんですか? いい歳をして、恥を知りなさい!」


さすがの聡も母親には弱いらしい。
まともに言い返すこともできず、完全に口を閉じてしまった。
どうやら、母の怒りが納まるまで待つつもりのようだ。

夏海はそんな聡の様子に不思議な感慨を覚えていた。


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