ラブ・パニック【短編】
4.好きな人
あれからすぐ、柚木さんと舞さんとは、気まずいまま別れた。
そして、今は東くんと二人で帰路に着いている。
いつもは明るい東くんも、さすがに重たい空気を放っていた。
……当たり前か。
柚木さんではなく、東くんの彼女なのに、裏切ってしまったんだもの。
「里緒」
急に声をかけられて、驚いて顔を上げると、いつの間にかあたしの家の前に着いていた。
東くんの顔を見ると、明らかに無理した微笑み。
泣くことを我慢しているようなその表情を見ていると、無性に泣きたくなった。
あたしには泣く資格なんてないのだけど、あたしが泣いたら彼も泣いてくれるのでは、と思う。
いつも、素直に、伸び伸びとした表情を見せる彼が好きだから。
そこまで考えて、自分の気持ちに戸惑った。
……好き?
そんなわけない。