HAZE GRASS 〜かすみ草〜[完]
バタンと音を立ててしまったドアに寄り掛かってすとんと座った


逃げるなんてね、最低だよね


自分がいやな状況になったら逃げる、そんな思考がだめなんだよね


気持ち入れ替えなきゃ


コンコン


頭の上のほうでドアを叩く音が聞こえた


元気に、何もなかったかのように


「は――い?」

「俺だ」


ドクンっと胸が高鳴った


ゆっくりドアを開ける


ドアを開けた瞬間、あきちゃんがあたしを包み込んだ


「...あきちゃん?」


あきちゃんの名前を何度呼んでも、あきちゃんはなにも答えずあたしを抱きしめていた


あきちゃんの顔が見えない、だからなんだか不安になった


「あきちゃん、あきちゃん...」


あきちゃんの腕の中で、なおちゃんの言葉を思い出した


“お前は絶対俺の元へ戻ってくる”


あの時の意味、この時は全然分からなかった


ねえ、あたしが戻って来てさ嬉しかったの?


今でも分かりません、今でもあの時の彼方の気持ちを理解するのは難しい


「千紗、戻るぞ」


あたしを離して、あきちゃんと真っ正面に向かいあった


不安でいっぱいだったから、すごく安心したんだ


ほら、やっぱりあたしはあきちゃんに逢うとほっとするんだ


あきちゃんの顔を見るだけで、嫌なことすべて忘れられるんだ


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