HAZE GRASS 〜かすみ草〜[完]
「帰れない、ごめん裕美、あたしなおちゃんが怖いの」


あたしはそう言ってTシャツをお腹までめくり上げた


裕美はそれを見て口元を手で覆って顔をゆがませた


「な...にこれ」

「なおちゃんにやられたの、あたしいたくて1週間も眠っちゃったよ」


フッと笑うと裕美はあたしのお腹に手をそっとかぶせてきた


「こんなのひどい、何で千紗がこんなことに」


相当ショックだったんだろう、裕美がすこし壊れはじめた


「どこに直人はいるの?あたし...」

「裕美!大丈夫だから、もう痛くないから!」


裕美の肩を左右に揺さぶってあたしは裕美を正気に戻した


「あっごめん、だって千紗が...」


裕美が下を向いた


「裕美、今は帰れない。でもいつか...いつかあたしを助けて」


帰れないけど、あたし帰りたいの


いつかもとの生活に...なれるわけじゃないけど、自由な生活がほしい


何年かかってもいい、何十年かかってもいいから、裕美達に助けてもらいたい


「いつかあたしを助けて、待ってる」


裕美に背を向けて、あたしは歩きだした


「待って!千紗ぁ!」

「待てない、帰らなきゃ」



帰り際に言われた裕美の言葉、今でも思い出す


“絶対、絶対助けるから!だから待っててぇ!”


これがあたしの腐りかけていた人生を変える出来事だった


あの日裕美に逢わなかったら今でもあたしはあの世界に居るだろう


そして、後悔しながら生きていくんだろう


あの時の裕美の言葉嬉しかった、本当にありがとう


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