ランデヴー
「ちゃんと話したいと思って、来た」


なに、を……?



頭の中が恐怖でいっぱいになる。


陽介の瞳はやけに真剣みを帯びていて、キュッと寄せられた眉はとても苦しそうだった。


そして怯えたように見つめる私の髪を掻き上げると、耳元を優しく撫でながら口を開いた。



「俺は……妻とは別れることは、できない」



静かに、でもきっぱりと言い放たれた言葉に、私は目を見開く。


陽介の口から奥さんの存在が言葉になるのは、初めてのことだ。


そのことに、私は大きな衝撃を受けた。



と同時に、いつもとは何かが違う気配を感じ取る。


やはり陽介は別れ話をしに来たんじゃないかという疑問に頭を支配され、私はこの場から逃げ出したい衝動に駆られた。
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