ランデヴー
私は両手で覆った顔を上げることができなかった。


苦しくて苦しくて、涙が止まらない。



陽介の言っている意味がわからない訳ではない。


私はそこまで子供ではないし、私たちの関係は最初から道なき道を行くものだった。



でも、私は陽介の言葉を飲み込むことがどうしてもできなかった。


いや、わからないふりをしたかった。



だって……それは即ち、別れ話を意味するのではないのか。


別れる準備をしよう、私に「他の男を捜せ」と。
そう言っているのだと。



理解なんて、したくなかった。


気が遠くなる程の絶望に胸が支配される。



顔を伏せたまま泣くことしかできない私の前で1つ息を吐き出すと、陽介は再び口を開いた。



「ゆかりと倉橋君の噂を聞いた時、胸が掻きむしられる程の嫉妬に襲われたんだ……」


突然倉橋君の名前を口にした陽介に驚き、私は恐る恐る顔を上げた。


俯きながら話す陽介はまるで痛みを堪えているかのように見え、それに呼応するように私の胸もズキンと痛む。
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