ランデヴー
「いやぁ、楽しくなりそうだなぁ、大地?」


「え? まぁ、そうですね」


佐原さんは新入社員の存在がそんなに嬉しいのか、隣の席の大地さんをも巻き込んで、倉橋君ネタを続ける。


当の本人である倉橋君は、部長に連れられてどこかへ行ってしまい不在だというのに。



大地さんは私と同じチームで働く柔和な男性で、この部署では『大地』と名前で呼ばれていた。


そもそも鈴木という名字の大地さんは、以前いたもう1人の鈴木さんと区別する為に名前で呼ばれ始めたらしい。


もはやその鈴木さんは既に退職してしまっているが、あだ名は定着して残ったままだ。


大地さんは良く気が利くし優しい人なので、私はいつも助けられていた。



「佐原さん、これハンコお願いします」


そろそろお暇してもらおうと、私は書類の束を佐原さんに押し付ける。



「はいはーい」


彼ははいつものようにご機嫌で書類を手にすると、席へ戻って行った。


私はそれを見届けてもう1つ息を吐き出し、再びPCに向かってパタパタとキーボードを叩き始めた。
< 9 / 447 >

この作品をシェア

pagetop