花は野にあるように
「………な。」


あともう少しで教室に付くっていう所で、リョクの声が聞こえた気がして僕は振り返った。


「え?
なにか言った?」


ちょっとうつむき加減のリョクを見上げるように、すぐそばまで近付いた僕は上に向かって問い掛ける。


「ねぇ?
いまなんて言ったの?」


見上げる僕が、割り込むようにして入ったリョクの視界の中で、一瞬遅れて僕に視点を定めたリョクがやわらかく。


そう。


とってもやわらかく微笑んでくれた。


それはまるで、生まれたての赤ちゃんを大切にくるんで守る産着を思わせるぐらいにやわらかい笑顔で。
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