花は野にあるように
じわり、と浮き出したリョクの汗の匂いは、いつものリョクの緑の森を思わせる香りと相まって、夏の山のような匂いがした。


押し寄せる緑の洪水のような匂い。


その匂いに包まれて。


閉じたまぶた越しに感じる始まったばかりの夏の日の光を感じて。


僕はリョクの背中で規則的に揺られながら、なんだか落ち着くような。


安心できるような。


そんな気持ちになっていた。


「なるべく急いで降りて、少しでも早くミキを病院に連れていかなきゃな。」


リョクがひとりごとみたいにそう言ったけど、僕はこの時間がもっと続けばいいな、なんて。


そんな事を考えていた。
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