花は野にあるように
小さな商店街を抜けた先にある、昔からの下町っぽい住宅街の一角に、そのアパートは立っていた。


文化住宅っていうんだって、リョクのお父さんが教えてくれる。


古くて。


でも懐かしい感じのするこのアパートの、2階の部屋を訪ねるために、僕は鉄製の階段をこわごわと登って。


そして狭い廊下を少しだけ進んで、クリーム色に塗られた扉を叩いた。


コンコン、と。


思ったよりも軽い音が響いたと思った途端に、扉は内側へと勢いよく開かれて、ドアノブを握っていた僕は引っ張られる形で部屋の中へとよろめいた。
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