花は野にあるように
「………うん。」


リョクを見上げて僕が返事をするのと。


電車の扉が開いて人の列が動き始めたのとは。


ほとんど同時だった。


「足元に気を付けろよ。」


リョクの声が低く響いて僕に注意を促す。


僕はリョクの手を握り締めながら、人の波に流されるように電車の扉に向かい、渦に飲み込まれた木の葉のごとく車内へと乗り込んだ。


「あっ!」

しっかりと持っていたはずのお弁当を入れたサイドバッグが僕の手を離れて、人波に流されていきそうになる。


つないでいた手を離して、間一髪でカバンを救出してくれたのは。


リョクだった。
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