にょんさま。



『急用が出来たから、先に帰って。ごめんね』



 メールを開いて、四季は肩を落とした。今日は講義の時間が終わるのが同じだから一緒に帰れるのを楽しみにしていたのに、これである。

(忍、何かあったのかな…)

 忍は落ち込むことがあった時、言葉が少なくなる。

 何かあった時、人に心配させないようにとの気遣いが先に立ってしまう忍の性格上、それは仕方のないことかもしれないけど──。

 四季としては頼って欲しいのだ。心配くらいさせて欲しい。

 それに、こんなふうにいつも気丈でいられると、自分は忍に愛されていないのではと不安になってしまうのだ。

(まだ由貴のことが好きなのかなって思ってしまうんだよね)

 どんなに想っても、自分では忍の中の由貴には決して勝てないんだろうかと。

(ああ、何だかどんどんダメになっていく気がする…)

 忍が好きになればなるほど。本当は自分が忍よりしっかりしていたいのに。

 忍を好きになる前は大部分がピアノで占められていた心の中が、今はもう同じくらいに比較出来ない大事なものになってしまっている。



 窓の外を見ると曇り空が広がっていた。雨が降りそうだ。

 それで早く帰らなければと、気持ちが切り替わる。

 四季は身体があまり強くない。これで風邪でもひいて逆に忍を心配させていたのでは目も当てられない。

(家に帰ってから忍にメールしよう)

 楽譜を抱えて四季は器楽室を出た。



     *



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