にょんさま。



「どうなの?」

 雛子が真面目に聞いてきた。ぱっちりした瞳に長い睫毛。柔らかくカールした髪が揺れる。

 以前、雛子が四季に「雛子ともデートして」と冗談のように言っていて、それを四季は「ダメ。ごめんね」とかわしていたことがある。

 その時の雛子の言葉は軽い気持ちではなかったのだ。

 四季に可愛いと思ってもらいたい雛子の思いは、雛子の姿に表れている。

 だけど──。

「私、四季が好きだよ」

「……」

「本当に好きなの」

 きっぱりと胸の内が言葉になっていた。忍自身、その言葉が自然に出てきたことに驚いた。

 本当に好きなのだ。

「そ」

 雛子の反応は意外にあっさりしたものだった。

「それならいいんだけど」

「それより、指輪見てもいい?」

 まりがさっきから気になっていたように、切り出した。

「うん」

 指輪を外す。まりは指輪を手にとって「いいなー」と羨ましがった。

「私も彼氏にお願いする〜」

「あームリムリ。揺葉さんはもらえても、まりはムリ」

「何それ。超しつれー」

 どつき合っている。あはは、と周りが笑った。

「揺葉さん」

 教室の出入口の方で、先生に呼ばれた。

「ソロがある人達の楽譜、取りに来て」

「はい」

 取りに行ってくるね、と言い残して忍はその場から離れた。



     *



< 7 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop