にょんさま。



「揺葉さん、いいよね。美人だし」

 指輪でひとしきり騒いでまりが言った。雛子が「そう?」と不機嫌そうに反論する。

「揺葉さんが好きだったのって由貴くんの方なんでしょ?」

「ええ?由貴くんって四季くんの従兄弟の?」

「そう。その綾川由貴くん」

「だって由貴くんは桜沢さんとずっとつき合ってるんでしょ?」

「それを知ってて揺葉さんは由貴くんが好きだったんだよ。四季くんはその頃から揺葉さんが好きで。結局揺葉さんが四季くんの気持ちを受け入れてつき合い始めたみたいなんだけど。だから私、揺葉さんが今は四季くんが好きだなんて思えない。由貴くんに似てる四季くんを由貴くん代わりにしたいか、それとも四季くんをだしにして由貴くんの近くにいたいかなんだよ。四季くんは利用されてるの!あの女に」

 雛子の言葉にまりたちはしんとしてしまった。亜希がなだめるように口を開く。

「雛子。いくら何でも言い過ぎだよ。本当に好きだって、さっき揺葉さん言ってたじゃん」

「だって!私の方が四季くん好きなのに!なのに、ただ四季くんが好きっていうだけで、何であの女ばっかり…!」

 貸して、と雛子はまりの手にあった指輪を乱暴に奪い取った。

「な…っ。雛子!」

「こんなもの!」

 雛子は窓辺に駆け寄ると指輪を外に投げた。下には川が流れている。指輪はそこに落ちて行った。

「雛子!あんた!」

「あんな女、不幸になればいいのよ!」

 わっと泣き出す。そこに忍が楽譜を抱えて戻って来た。

「──。どうしたの?」

 状況が掴めない。まりたちは気まずそうに顔を見合わせ、雛子がきっと顔を上げた。

「どいて!!」

 忍の肩を突き飛ばし、忍はよろけた。亜希が「揺葉さん、ごめんね」と謝り、雛子を追いかけて行った。

「雛子!」



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