にょんさま。



 何が何だか把握出来ないまま、忍は床に散らばった楽譜を拾い始めた。まりが寄って来て一緒に拾い始める。

「揺葉さん、ごめん」

「ごめんって?」

「指輪…なくしちゃった」

 忍は呆然とまりを見る。まりは手を合わせて謝った。

「ほんと、ごめん!ごめんね!」

 ひたすら謝るまりに、事の経緯を説明してくれたのは周りで見ていた女子たちだった。

 話を聞いて忍はまりの気持ちを察した。

「まり、大丈夫だよ。謝らないで」

「でも」

「気にしないで。私が教室を出る前に指輪を返してもらっていればいいことだったんだから」

 私が不注意だったの、と忍は言った。

 まりや雛子、雛子を追いかけて行った亜希の心情を考えると、そう言うことしか出来なかった。

「それより後はこれだけだから。片づけて帰ろう?」

 落ち込みそうになる気持ちを奮い立たせて笑顔になる。

 忍の落ち着いた表情は、まりたちをほっとさせた。

 楽譜の整理を終え、まりたちと別れる。

(四季にどう説明しよう)

 窓から見える川を目にして泣けてきそうになった。12月の川で指輪を探すのはバカだろうか?

 四季に笑顔で会える自信がなかった。泣き顔を見せたくない。それで四季の心配している顔を見るのはつらい。

 忍は携帯を開くと、四季にメールを送った。



『急用が出来たから、先に帰って。ごめんね』



     *



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