ある雪の降る夕方。


「タケル、いる?」

この学校に来るのも久しぶりだった。

校門をくぐってあまり花の咲いていない花壇を抜けて行くと、校舎の入り口の前にある大きな階段。

あたしはいつもその階段の下で、彼を待っていた。

「コウちゃんじゃん。久しぶり」

あたしが声をかけたのは、彼と同じ部活の増岡君。
友達の多い彼の、一番の親友だ。

「タケル、部活に顔出すって言ってたけど」
「そう」
「約束してたの?呼んでこようか?」

「ううん、いい」、あたしはそう首を振って、もう一度階段の手すりに背を預けた。
受験も終わって卒業を控えた今、残り少ない時間をどう過ごすかは彼の自由だ。

「多分後輩の様子見に行っただけだから、もうすぐ来ると思うよ」

増岡君はそう言って、少し空を見てから、おもむろに階段を駆けあがった。
不思議そうに見ていると、階段の向こうに姿を消したと思った増岡君が少しだけ頬を赤くして戻って来た。
紅潮した頬は、多分寒い空気の中彼がほぼ全力で走ったからだ。
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