ある雪の降る夕方。
「はい」
白い息と一緒に差し出された手には、缶に入ったココア。
あたしの指先に触れた瞬間、自分の指の冷たさを改めて実感する様な痛い温かさを感じた。
「寒いし。雪、降りそうだから」
マフラーを口元まで上げる仕草は、彼が少し照れている時にするもの。
去年の冬、あたしはその癖を知った。
部活をしている頃の彼よりは少し伸びた癖のある前髪が、冬の冷たい風に揺れる。
ほんのり赤く染まった頬。
それはきっと、彼が走ったからなんだけど。
でもあたしは、それ以外の原因になり得る理由を、知ってしまっている。
それを感じると、より一層、指先が痛くなった。
「あれ、コウちゃん!」
階段の上からまた違う声がする。
男子校だからこう頻繁に男の子の声がすることに最初は違和感を感じていたけど、今はもう慣れてしまっていた。
「久しぶりに見た~!元気?受験終わったんだっけ?」
「うん」
「いやより一層美しさに磨きをかけましたね」
「いつ見ても可愛いわ」
「オアシスだね」
「いや、お前等群がりすぎだって」