ある雪の降る夕方。
彼らが去った後の空気は冷たい。
人がいたからか、より一層外の空気の冷たさを実感した。
最初、ここで彼を待つことに抵抗があった。
次々と階段を降り来る男の子達。その視線が、自分に向いている事も当然わかっていた。
今では気にならないけど、昔のあたしは嫌で仕方なかった。
どうか、タケル君が今来ません様に。
誰もいない時に来ますように。
あたしが、タケル君の彼女だとばれませんように。
こんな子が彼女だと思われたくない。
あのタケルの彼女がこんな子だって、思われたくない。
タケル君の評判を、下げたくない。
階段の下、できるだけ俯いて鞄のとってを握りしめ、繰り返しそんな事を思っていた。
今のあたしは、俯いていない。そんな事も思っていない。
彼の友達はあたしを見て、『あのタケルの彼女がこの程度』とは決して言わない。『こんな子が彼女でタケルがうらやましい』と口を揃えて言う。
それは、あたしが望んでいた事なはずなのに。
なのにどうして、今あたしは、あの頃の俯いていた自分がうらやましいと、そう感じてしまうのだろう。