ある雪の降る夕方。

「・・・・・・香?」

握りしめていたココアの缶から視線を外すと、階段の上に見慣れた姿があった。

記憶の中で、まだ黒髪のあたしが満面の笑顔を見せる。

「来てたんだ」
「・・・・・・うん。一緒に帰ろうと思って」

階段を降りながら、タケルは少し戸惑って鞄を肩にかけなおす。
当然だ。距離を置こうと言ってから三ヶ月。あたし達は一度も連絡を取っていなかった。

そんな2人が、何の前触れもなく何事もなかったように再会する。
その意味を、多分、お互いどこかでわかろうとしていた。

「・・・・・・帰るか」

タケルはそう言って、ポケットに入れていた片手を取り出す。けど、その片手は少し迷う様に居場所を探し、結局元のポケットに収まった。

あたしはその片手を、いつも大切に握っていた片手を、両手でココアを握りしめたまま、ただ見つめていた。












< 6 / 68 >

この作品をシェア

pagetop