あなたに、伝えたいから。
十年近く前の回想を終えて、眼を開く。ざわついた会場の熱気が伝わる。
あれから僕は大学に進学して、軽音のサークルで知り合った仲間とバンドを立ち上げた。
大学四年間インディーズとして活動して、卒業する時に両親に音楽を続けたいと言ったら、案の定、激怒された。お前なんかがプロになれる訳が無い、と父は怒鳴り、なんでそんな事を、と母は泣いた。
プロになれない、それでもいい、と家を飛び出した。
僕は歌い続けた。たった一人の俺のファンの為に。
今、僕達は、プロとして初めてのライブに臨もうとしている。
もう僕達のファンは一人じゃ無いだろう。
だけど、僕の1番のファンはきっと、あの先生だ。
歌い続けている時、先生に会いたいが為に母校に行った時に、僕達のライブに行きたいから連れてってくれ、としきりに言っていた。
今まで照れ臭くてライブやる所を教えなかったけど、今回は封筒にチケットを突っ込んで押し付けてきた。
『最後まで、きいてください』
一時間悩んで書き上げたのは、たったこれだけの文章だった。
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