『彼女』に送る夜想曲【ノクターン】
放課後、香奈は屋上に向かって階段を上がっていた。
授業は全て終わり、校舎のあちこちから部活に励む生徒たちの声が聞こえる。
屋上への扉を開くと、そこには陽が傾きかけてオレンジに染まる街と屋上があった。
「わぁ・・・きれい・・・」
香奈の口から思わず感嘆の息が漏れる。
「やぁ香奈、やっと来たね」
夕焼けに見入っていた香奈は、声を掛けられ思わず振り向く。
「昂!」
名前を呼ばれた昂は、微笑む。
彼の名前は坂田昂。
中学三年、元生徒会長である。
悪くない顔立ちだが一見真面目で堅い印象があり、いつも一人でいることが多かった。
だが、実際はそんなことはない。
にもかかわらず、本当の昂を知る者は少なかった。
昂いわく、生徒会長の時とは顔を使い分けていたのだそうだ。