『彼女』に送る夜想曲【ノクターン】
そのうちに、咲はあることに気付いた。
力には、まるで属性のようなものがあるということ。
火、水、風、時間、これが咲が使えたことのある属性だった。
だが、どんなに強く願っても、愛しい家族は戻ってはこなかった。
「ふぅ」
咲は今日何度目か分からないため息を吐いた。
この力は一見便利そうだが、かなりの体力と精神力を要する。
負担が大きいのだ。
「(少し休もう)」
そう思い、立ち上がって自室に向かった。
だが、異変が起きた。
自室のドアを開けた瞬間、咲は自分の目を疑った。
そこには、あるはずねベッド、机、鏡等はなく、代わりに真昼の草原が広がっていたのだ。
若草色のまるで緑のカーペットのような、なだらかな草原が、優しい光に包まれながら風になびいていた。
「(力の使いすぎで疲れているんだ・・・)」
咲はそう思い直し、ドアを閉めようとした。
だが、手に握っていたはずのドアノブはなく、いやドア自体がなく、咲は一人で見知らぬ草原に立っていた。