『彼女』に送る夜想曲【ノクターン】




そのうちに、咲はあることに気付いた。

力には、まるで属性のようなものがあるということ。

火、水、風、時間、これが咲が使えたことのある属性だった。

だが、どんなに強く願っても、愛しい家族は戻ってはこなかった。

「ふぅ」

咲は今日何度目か分からないため息を吐いた。

この力は一見便利そうだが、かなりの体力と精神力を要する。

負担が大きいのだ。

「(少し休もう)」

そう思い、立ち上がって自室に向かった。

だが、異変が起きた。

自室のドアを開けた瞬間、咲は自分の目を疑った。

そこには、あるはずねベッド、机、鏡等はなく、代わりに真昼の草原が広がっていたのだ。

若草色のまるで緑のカーペットのような、なだらかな草原が、優しい光に包まれながら風になびいていた。

「(力の使いすぎで疲れているんだ・・・)」

咲はそう思い直し、ドアを閉めようとした。

だが、手に握っていたはずのドアノブはなく、いやドア自体がなく、咲は一人で見知らぬ草原に立っていた。



< 21 / 49 >

この作品をシェア

pagetop