『彼女』に送る夜想曲【ノクターン】
「・・・淳?」
咲は半信半疑でその人物に声を掛けた。
「あ?」
その人物が反応し、顔をあげる。
それはやはり淳だった。
「なんだ、咲じゃねぇか。何でこんなとこに居んだよ」
咲は少し安心した。
全く知らない土地で一人で立たされていたのだ、知っている人物が居てくれるのは心強い。
「私も分からないの。部屋に入ろうとしたらここに立ってた」
「何で?」
「だから分からないんだってば」
咲はがくりと肩を落とした。
数日前、夕焼けの屋上で淳と話していた時もこうだった。
会話が進まない。
話したことを聞いてくるのだ。
咲はそれをとても疲れると感じていた。