『彼女』に送る夜想曲【ノクターン】
「どうしちゃったの?」
香奈は不審気にシヴァを眺めながら、咲に小さく耳打ちをした。
「さぁ?」
咲は肩を竦めて見せた。
香奈の様子を見ると、ここが日本だと思っているようだ。
無理もない、と咲は内心息をつく。
自分の部屋にいたのに、いきなりこの草原に落とされ、日本人離れした美青年が現れたかと思うと「ここは日本ではない」と告げられたのだ。
誰が信ようか。
普通の人間なら、誰も信じるまい。
だが、咲にはここが確実に日本ではないことが分かっていた。
何より、力の発動のしやすさが違いすぎる。
このラントゥールという国の空気はとても澄んでいて、力を発動すると空気中に力が伝わっていくのがよく分かった。