運命の人
美弥子はなかなかはっきりしない香織を見て、場所を変えじっくり聞こうと切り出す。
「香織さん。お互いグラスも空いた事だし、そろそろ次のお店に行きません?」
「そうね。そうしようか」
香織は美弥子の誘いに乗り、素早く伝票をもって会計を済ませ店を出た。
「もう。奢りますって誘ったのに、なんで香織さんが払うんですかっ」
美弥子は両頬をプクゥと膨らませ抗議する。
「ふふ。みゃーこ可愛い。そんな可愛いみゃーこに心配かけちゃったお詫びとお礼って事で。ね?」
「もう。みゃーこって言う。そんな事言うなら次のお店も奢って貰いますよ」
香織は美弥子の事をみゃーこと呼ぶのが好きなのだが、美弥子はあまり呼ばれたくないらしい。
それでも頑なに拒否しないのは、香織の愛が伝わってくるからだ。
「ふふ。みゃーこの頼みなら」
「いや。やっぱり払います」
「いいのに~」
「今日こそは払います!!」
真剣な表情で美弥子が言うので、香織は「わかった」と言ってこの話は終わった。
そして拾ったタクシーの中で、香織は現実と思考の渦を行き来しながら、美弥子の愚痴を聞いていたのだった。