琥珀色の誘惑 ―日本編―
「私の独断でお話し致します。マイ様、殿下がなぜあれほどまで、日本語がお上手かお判りですか?」

「それは……日本人のお母様から教わったって」

「確かに。しかし、それが何の……誰のためか、お気づきでしょうか? 殿下だけではございません。私も日本語を習いました。国に残った側近の者も数名、日本語を話せます。宮殿の女官たちも、たくさんの人間が日本語を話します。――全部、マイ様のためです」


やっぱり、と思った。

遠い国から迎え入れる花嫁のため、ミシュアル王子は何年も前から準備をしてきたのだ。


「実は……国王陛下は二年前に心臓を患われました。そんなお父上のためにも、殿下は予定通り結婚して、安心していただきたかったのではないか、と推察しております」

「そんなこと……わたしにどうしろって言うの?」

「マイ様、どうかお願いです。クアルンにお越しくださいませ!」

「……アルが、迎えに行けって言ったの?」


その点が一番重要なことだった。

なぜなら、ミシュアル王子自身が言ったのだ。婚約を破棄する、と。


「……」


だが、ターヒルは答えない。


< 104 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop