琥珀色の誘惑 ―日本編―
(19)危険な偶然
『ターヒル! ターヒルは何処だ。ターヒルを呼べ』


そこは舞の訪れたホテルではなく、東京の臨海副都心にあるホテルだった。

三十階建の二十七、二十八階がプレジデントフロアと呼ばれるスイート専用。王子の滞在に合わせて、両フロアとも貸し切りとなっていた。


『ヤイーシュ、ターヒルはどうした? 何故、呼ばれてすぐに来ないのだ!』


ターヒルと同じく黒いスーツに身を固めた青年を、ミシュアル王子は怒鳴りつけた。


ヤイーシュ・アリ・ハッダード、王子と同じ二十八歳だ。
母親がアメリカ人のせいか幾分肌の色が白い。綺麗な砂漠色の髪を背中の中央まで伸ばし、後ろでひとつに括っている。
そして彼が最も母親から受け継いだのは、見事なブルーサファイヤの瞳であった。

ヤイーシュは膝を折り、ミシュアル王子の質問に答える。


『ターヒルは外に出たようです』

『どこに行ったのだ』

『帰国が早まったので、婚約者に土産を買いに行ったのでは? 彼も結婚を控えておりますから』


何気ないヤイーシュの言葉にミシュアル王子の怒りは増した。


(私の婚約が流れたのに、自分はノコノコと土産を買いに走るとは……不忠者め!)


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