琥珀色の誘惑 ―日本編―
(4)誰のための結婚?
聖麗女学院は有名私立校リストの末席に名前の挙がるランクの学校だ。

超有名校でもバリバリの進学校でもカトリック系お嬢様学校でもない。
“聖”の字が付くだけで、礼拝堂もなければ神父様も牧師様もおらず。校内には、プチセレブ、プチお嬢様ムードが広がっていた。


それでも周囲は一戸建てか分譲マンションには住んでいる。
舞の親友・桃子などは、個人病院のご令嬢だ。

しかし、舞の父・月瀬暁は外局勤め、四十八歳で係長……はっきり言って、それほど出世しているとは思えない。

何と言ってもまだ宿舎住まいなのだ。
四十歳まででマイホームを建てて出て行く人がほとんどなのに。
そのせいか、宿舎は二DK~三DKの間取りがほとんどであった。


『ねぇお父さん。わたし公立でいいよ。遼だってずっと公立だしさ。それにこんなに習い事しなくてもいいし、勉強だって家庭教師より塾のほうが安いでしょ?』


学費や教育費を少しでもマイホーム資金に回して欲しい、という娘の心遣いだった。
だが父は、


『女の子には、どんな誘惑や危険があるか判らないんだ。男の子はそんな心配は要らない。だがお前は……お前だけはちゃんとした娘に育てる義務があるんだ』


今時の“ちゃんとした娘”にお茶やお華が必要だとは思わないんだけど……。
そんな言葉を、舞は何度となく飲み込んだ。

他にもピアノ、クラシックバレエまで習わされ……。
ある時、舞の友だちがスイミングを始めた。『わたしもやりたい!』と舞は言ったが、父に却下されたのだった。

理由は『不特定多数の異性に裸に近い姿を見せるから』。


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