琥珀色の誘惑 ―日本編―
「決まってしまったって……。だから、それがなんでわたしなの!?」

「母さんの父親の妹のご主人が、殿下の母方の祖父の弟なんだ。それで三条家に話がきて……」

「ちょ、ちょっと待って、それって……わたしの大叔母と殿下の大叔父が夫婦ってこと?」


丸っきり血縁はないけど、まさか家系図の繋がる場所に他国の王族に嫁いだ人がいたなんて。
舞にとったらもの凄い驚きだ。


「そうなんだ。十五年前、殿下は十三歳でね。三条家の親戚筋で釣り合う少女はお前だけで……舞っ! これは名誉なことなんだ! お前は選ばれたんだよ。だから私たちも精一杯、お前を王子の花嫁に相応しい娘に育て上げたつもりだ!」


舞は驚き過ぎて、頭の中がぐるんぐるん回った。
どおりで、父が口やかましいはずだ。


「どうして……そんな大事なこと、なんでもっと早く教えてくれなかったの!?」


泣くように叫ぶ舞に、母が横から口を挟んだ。


「あら、お母さん言ったでしょう? 舞ちゃんには、大人になったら王子様が迎えに来てくれるって」


(そ、そんなバカな……。どこの世界に、そんな言葉を真に受けるヤツがいるのよっ!)


「良かったわ~。ちゃんと迎えに来てくださって。皇太子殿下は素敵な方ね。背もお高くて、舞ちゃんにピッタリ! 良かったわねぇ~舞ちゃん。お姫様になれるわよ」

「ことは国際問題だ。破談になる可能性もあったので、お前には言えなかった。それに……まさか二十歳になった当日に来られるとは……。とにかくだ! 舞、クアルンと日本の友好関係はお前に掛かっている。この不況下の日本を、さらにオイルショックで追い込むことはできんだろう? 殿下は本当に立派な方で、申し分ない縁談でもある。遠くに嫁にやるのは辛いが……この日が来るのを覚悟はしていた。幸せになるんだよ、舞!」


脅したり、すかしたり、なだめたり、忙しい父である。


だが、この二十一世紀に政略結婚だなんて…。

人生にこれ以上の衝撃はない、と確信する舞であった。



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