琥珀色の誘惑 ―日本編―
舞がギュッと目を瞑った直後――ザッと何かが引っ張り出される音が右耳の横で聞こえた。
そして左の太腿辺りでカチという音も。

舞がボーッと座ったままなので、どうやら王子自らシートベルトをはめてくれたらしい。

舞は勘違いした自分が恥ずかしく、一瞬で真っ赤になる。


「どうも……すみません」

「いや、君の期待に応える用意は充分にある」


舞が驚きの声を上げる間もなく、車は滑るように動き出す。


「え? い、いえ、期待ってわけじゃ」  

「恥ずかしがる必要はない。だが、今は駄目だ。私は結婚前に花嫁の純潔を奪う愚か者ではない」


その返事にホッとすべきだろうか。


「君が純潔であれば、の話だが」


ムカッとして、何か言い返してやろうと舞は横を向いた。

その瞬間、ギョッとする。


なんとミシュアル王子は黒いレイバンのサングラスを掛けていた。

この長身でベリーショートのヘアスタイル。
黒塗りベンツは走り始めると前方にも一台あり、前後を挟まれている。

どっからどう見ても、砂漠の国の王子様、じゃなくて、シチリアのマフィアあたり……。

きっと周囲は真実とは遠い意味で“要注意人物”だと思っていることだろう。


舞がため息を吐いた瞬間、なんと屋根が無くなった。

いや、フルオートで開いたのである。
おそらく二十秒も掛かってはいないだろう。


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