琥珀色の誘惑 ―日本編―
「せっかくのコンバーチブルだ。気候も良い。これがこの車の正しい乗り方だ」


ミシュアル王子はそんなことを呟き、信号で止まった隙に舞の方を向いた。


「SPを完全に除外はできないが、私にもプライベートな空間を作ることはできる。それに、自分の意思でソフトトップを開閉することも可能だ。判ったら、私の前でため息を吐くような真似は止めなさい」


舞のため息の理由が、この状況に退屈しているからだ、と思ったのだろう。
或いはSPを引き連れて移動することへの不満。


(でも、たかが屋根じゃない? 大袈裟な……)


そう思いつつも、前後のベンツの中がどうもあたふたしているようだ。

それをミシュアル王子に尋ね、帰ってきた答えに……舞は自分の浅はかさを知る。


「狙撃を心配しているのだろう。だが、日本にスナイパーが入国したという情報はない。気にする必要はない」

「し、閉めてください。いえ、閉めましょう」

「怖いのか?」

「当たり前です! それに、わたしのせいであなたに何かあったら……」


それこそ国際問題だろう。

だが、青褪めて震える舞をミシュアル王子は誤解したらしい。


ワンタッチで再び屋根を閉めつつ、


「君が怯えるのは最もだ。だが、私は弱い男ではない。君は安心して、私の庇護を受けると良い」


そう言いながら満足そうに頷いている。


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