琥珀色の誘惑 ―日本編―
「どうもこうも、婚約者です! って言えばいいじゃない。文句なら、あの王子様かお父さんに言ってよね!」

「まあ、そう言えばそうよね。でも……婚約は正式発表まで、口外してはいけないことになってるの。プリンスもお忍びで来日中らしいし。でも良かったわ。舞ちゃんが結婚する気になってくれて」

「え? あ、いや」

「早速、お父さんに電話しておきましょうね」


母はピタッと泣き止むと、瞬時に笑顔になり、いそいそとリビングに向かって行く。

そういうつもりで言ったわけではないのだ。
どうしよう、と母の背中を見送る舞に、後ろから……。


「なあ、結婚するわけ?」


弟の遼である。
同じ並びで、玄関に近いほうが遼の部屋、リビングに近いほうが舞の部屋だ。


「……判んない。もう、どうなってるのか、わけ判んないのっ!」

「でも、したんだろ? キス」

「されたのっ! 何か判んないうちに……そういうことになってたんだってば」 


舞が部屋に入ると、遼も追いかけて入ってきた。

でも、五畳の部屋にふたりでいると、もの凄く狭く感じる。


すると、遼はかなり言い難そうに話し始めた。


「あのさ、クアルンてすっごい閉鎖的な国だって書いてあった。ネットの情報だけど。王族は遊び暮してるのに、国民は貧しいんだってさ。女性の四割くらいは奴隷並の扱いだって言うし……。姉貴っていったいどういうポジションで行くわけ?」


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