琥珀色の誘惑 ―日本編―
(10)妻になる資格
「はじめまして、シーク・ミシュアル王太子殿下。殿下のことはたった今、舞さんから伺いました。お上手な日本語ですね」


桃子は立ち上がり両手を前で揃えて会釈した。

大袈裟な立ち居振る舞いでは、逆にミシュアル王子に迷惑が掛かると思ったからだろう。
彼女らしい気遣いだ。
そして、それは王子にも伝わったようである。


「日本人として育った母から学んだ。――君が星合桃子だな。さすがに名門の女子大に相応しいお嬢さんだ。同じ学校に通って、どうして舞はこうなってしまったのだろう。私には不思議でならない」


ミシュアル王子はしみじみと言う。

それに釣られて桃子まで頷いている。


「ちょ、ちょっと待ってよ! だったら、桃子と結婚したらいいでしょう! 第一、うちはそんな名門ってわけじゃ」

「舞、舞ってば」


元々強がりで、滅多なことでは泣きを見せない舞である。
相手がシークだろうが、王子様だろうがお構いなしのところはとても彼女らしい。

だが、アメリカのテロ事件以降、アラブ系の男性は凶悪に見られる風潮がある。
パッと見は日本人のミシュアル王子も、アラブの男性に違いはないのだ。

それ以上に、身に纏う独特のムードは、やはりスーツやサングラスでは隠しきれるものではない。


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