琥珀色の誘惑 ―日本編―
桃子は舞を王子から引き離し、彼に背中を向けてコソッと囁く。


「相手が相手なのよ。少しは考えなさい。それに、うちは超有名ってわけじゃないけど……殿下だって判って仰ってるのよ。ニッコリ笑って『ありがとうございます』って答えるのが礼儀でしょう?」


舞はそんなこと気付きもしなかった。

言われたことをそのまま受け取って来たのだ。
素直な性格と言えば聞こえは良いが、融通の利かないとんでもない石頭のように思える。

またひとつ自分に欠点を見つけ、舞はため息を吐いた。

しかし、どんな理由であれ、この“気まぐれ王子”にだけはニッコリ笑ってお世辞を言う気にはなれない。


「桃子、君は信頼に足る人物のようだ。だが、人前で私に敬称を付けて呼んではいけない」

「ではなんとお呼びすればよろしいのですか?」

「笹原(ささはら)だ。母の旧姓となる」

「判りました、では笹原さん、と」


桃子がそう呼ぶとミシュアル王子は静かに頷いた。


人目につくのが嫌なら、どうしてこんな所まで来たのだろう。
舞がそれを尋ねようと、


「あの……笹原さん」

「アルだ! お前にはそう呼べと何度も言っている」


桃子には礼儀正しく答えるくせに、舞には上から目線。
しかも“お前”呼ばわりだ。


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