琥珀色の誘惑 ―日本編―
後になって思えば、そのままミシュアル王子を連れて立ち去れば良かった。

だが、突然現れ邪魔をする彼に、舞の中に反抗心が芽生えたのである。

どこか、王子の思う通りにしてやりたくない、そんな甘えとも悪戯心とも取れる思いが。


舞はフイッと横を向き、無言で座り直す。

舞が座ると追随するようにミシュアル王子も座った。


だが、それに面白くないのが男子学生たちである。「タケシ、大丈夫か?」「なんだよ、このオッサン」と小さな声で呟き始めた。

とくにタケシと呼ばれた男子学生は、にわかに怒りが込み上げてきたらしい。


「あの時さぁ、一緒に来てた実加ちゃんに聞いたんだけど……」


舞とかなり距離を取って座りながら、タケシは切り出した。

実加は同じ大学に通う人間文化学部の同級生である。
高校から一緒で悪い子ではない。でも、舞はそう親しいわけではなかった。

とびきりの美人ではないが、賑やかでおしゃべりなタイプ。合コンを盛り上げる為、桃子が実加を呼んだのだった。


「舞ちゃんってさ、彼氏いない歴二十年なんだって?」


その台詞に彼らは一様に笑った。


「親父さんって公務員なんだろ? なんでそんなに厳しいわけ?」

「そんなおっかない番犬付きだとさ、彼氏はできないって」

「そうそう、こないだも早く帰ったじゃん。門限とか気にしないでさ。もっと楽しまないと」

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