琥珀色の誘惑 ―日本編―
「悪いのはアルのほうなんだからねっ!」

「舞! お前はそんなことでクアルンでやって行けると思ってるのか?」

「やって行ける訳ないじゃない! お父さんのほうこそ目を覚ましてよ。普通じゃないでしょ、こんなことって」

「い、いまさら何だ!」

「今更?」

「お前はシーク・ミシュアルと、その……そういう仲だと言うじゃないか! 隠しても無駄だ。母さんがどうしようと、泣くように電話を掛けて来たんだぞ!」


舞は唖然とした。
どうやら先日の“公園でキス”の一件らしい。

母はいったい何と言って父に電話したのだろう。


「あのね……お父さん」


このとんでもない誤解を解こうと、舞が口を開いた瞬間である。



玄関の外で何かを蹴り倒す凄い音がしたかと思うと、ふいに玄関が開いた。
ドアの隙間から転がるように、弟の遼が飛び込んでくる。

遼は真新しい学生服を着て、スニーカーも鞄も新品だ。黒帯で巻かれた空手の道着だけ、使い込まれて擦り切れている。

それが、一八〇近くある大柄な体に反して、まるでチカンに追いかけられた女子高生さながらに慌てた様子だ。


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