琥珀色の誘惑 ―日本編―
エレベーターの扉が開いた瞬間、例のSPたちが一斉に舞たちを注視する。

その中には、舞に『手をテーブルに置け』と命令した男もいた。


「殿下より伺っております。私はターヒル・ビン・サルマーンと言います。日本語は殿下と共に習いました。でも、この中で日本語を話せるのは私だけです」


ターヒルは黒く短い髪をしていおり、鋭い瞳は灰色だ。
そして、先日同様怒ったような顔をしている。


「あの……どうしても話したいことがあって。アルは?」


ターヒルは首を左右に振り、深いため息を吐く。


「ミス・マイ・ツキセ。あなたは本当に何もご存じない。クアルンでは結婚前の男女がふたりきりで話すことすら許されていません。我々は国外に出ることも多く、一般男性よりは慣れていますが……」


それでようやく得心がいった。


ミシュアル王子にとって、ふたりきりでジャガーに乗ることは凄いことだったのだ。

舞の誕生日にやって来たときも、わざわざ父の了解を得てふたりきりになった。


そう言えば、王子の乗り捨てたジャガーを引き取りに来た男性はかなり若かった。
舞と目を合わそうともせず、アラビア語で捲くし立てると、運転席に飛び乗るように走り去った。
あの男性も独身に違いない。


だがふたりきりで話せなければ、どうやって恋をして、愛を育むのだろうか?

そんな疑問をターセルにぶつけてみる。


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