琥珀色の誘惑 ―日本編―
「母さんっ!」


父は母に目配せする。
ミシュアル王子のことは話題にするな、と言いたいらしい。だが、そんなことに気がまわる母ではない。


「あら、お父さん、おかわりですか?」


などと答え、父を困らせている。

そんな母に舞は答えた。


「お母さん、あの王子様は違うよ。相手は誰でもいいんだって。きっと、手近なところで手を打つと思うよ」

「まあ!」


母の表情が変わった時、娘のために憤慨するのかと思った。ところが……。


「じゃあ、舞ちゃんも頑張らないと!」

「は?」

「折角、舞ちゃんにとって運命の王子様が現れたのよ。人に取られたら大変だわ!」

「で、でも、もうすぐ国王なんでしょ? だったらお妃候補はたくさんいるだろうし」


ダンッ! と母はテーブルを叩いた。


「舞ちゃん! “運命の愛”はね、棚から落ちてくるのを待っていたら、誰かに食べられちゃうのよ」


ぼた餅じゃないんだから、と思いつつ……。

でも、母の言葉は胸に響いた。
確かに、舞の中で「このままじゃイヤだ!」と叫んでいる声も聞こえる。


「わ、わたし、やっぱりもう一度……」


舞が立ち上がったその時、まるで運命のように、玄関のチャイムが鳴ったのだった。


< 98 / 154 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop