この男、偽装カレシにつき
「おい」


ビクッ。
声をかけられただけで飛び上がった私に、センパイは眉をひそめる。


「どうした?」


どうしよう、センパイの目が見れない。


「ごめんなさい、私…」


なんとか声にならない声を絞り出すと、


「具合でも悪いのかよ」


センパイは心配そうに私の額に触れる。


こんなときに、そんな優しくしないで。
嫌われるのが、もっと怖くなっちゃうよ。


だけど、これ以上センパイの優しさに、不誠実さで返すようなことしたくない。


裏切るような真似したくない。


「私じゃない…」


覚悟を決めて言葉を紡ぐ。


「ごめんなさい…。
具合が悪いのは私じゃなくて雪乃さんなの…」


次の瞬間。
せきを切ったように溢れ出した涙で、私の視界はあっという間にぼやけていった。
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