この男、偽装カレシにつき
「橘センパイ…」


「え…?」


私の勢いに押されて、電話の向こうでそう声を漏らしたのは橘センパイじゃなかった。


私ってば、また着信の相手を確かめずに出ちゃった。
あんな大失敗したばかりだってのに。


「チエちゃん…?」


この声、大野センパイ…?


その瞬間、目の前に大野センパイの柔和な笑顔が浮かんで、思わず堪えていた涙が溢れ出す。


「隼人と一緒じゃないの?」


大野センパイの優しい声にホッとしたのか、涙が次から次へとこぼれる。


何も言えずにしゃくり上げる私に、


「もしかして泣いてる?」


大野センパイの語尾が強まったのが分かった。
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