この男、偽装カレシにつき
クールな橘センパイが雪乃さんのことで熱くなるのを、今まで何度も見てきた。


センパイをそうやって駆り立てるのは、雪乃さんだけだって分かってたのに。


今こんなに胸が痛いのは、ずっとしらばっくれてきたセンパイが、やっと本音を言ったからかもしれない。


「橘センパイは、理性ふっ飛ばし過ぎだよ…」


思わず、今まで堪えていた言葉が口からこぼれ落ちる。


ずっと言えなかった。


センパイのせいで、私がどれだけ傷付いたか分かる?
どれだけ涙流したか分かる?


「いくらまだ未練あるからって、彼氏のいる相手に手を出すなんて―――」


どうかしてる、そう言いかけたとき。


パンッ。
快音が響くと同時に、私の左頬に衝撃が走った。
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