この男、偽装カレシにつき
手を添えられて開かされた口に、大野センパイの舌がそっと入ってくる。


大野センパイとキスしてる。
そう自覚した瞬間、脳裏に橘センパイの顔が過ぎった。


放課後の裏庭で。
柄にもなく、切なげな顔で私を見つめるアイツを思い出して、胸がギュッと苦しくなる。


憧れの大野センパイとの、待ち焦がれたキスなのに。


大野センパイとキスすればする程、なぜか橘センパイのキスが鮮明になっていく。


どんなつもりでキスしたのか、その真意も分からないのに。


それが愛おしくて堪らなくて。


私は思わず大野センパイを押し退けていた。
< 413 / 499 >

この作品をシェア

pagetop