この男、偽装カレシにつき
まだ、橘センパイと偽装カレシカノジョになりたての頃。


コーヒーを買いに行かされた私に付いてきてくれた大野センパイは、「俺はこっち」と無糖のボタンを押した。


あのとき私は大野センパイのことが好きで。


センパイはブラックだって、あれだけ頭にインプットしたはずなのに、いつの間に忘れてしまったんだろう。


それに、間違えたのは今日が初めてじゃない。


初詣のときもセンパイに加糖のコーヒーを渡してしまった。


あのときセンパイは受け取るのを一瞬ためらったのに、どうして深く考えなかったんだろう。


砂糖四杯と、ミルクたっぷり。
いつの間にか、そんな甘ったるいコーヒーが私にとって当たり前になっていて。


私は二度も、大野センパイにそれを押し付けようとしたんだ。
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