この男、偽装カレシにつき
「ご、ごめんなさい。
入れる前だったからギリギリ…」


セーフ。
そう言おうとした瞬間。


センパイに手を引かれてバランスを崩したかと思うと、私はその場に押し倒されていた。


ラグのおかげで、頭も体も痛くはなかったけれど。
私を見下ろすセンパイの悲しそうな視線が胸に突き刺さった。


「そんなにアイツが忘れられない?」


ああ。
全部お見通しなんだ。


「ゆっくり俺を好きになってくれればいいって言ったけど。
いつになったら、チエちゃんは俺を見てくれるの?」


その沈痛な面持ちに、胸が締め付けられる。


私の知ってる大野センパイは、穏やかで、落ち着いてて。
女の子を押さえ込むような人じゃない。


そのセンパイを、私はここまで追い詰めたんだ。
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