ギャルバン!!! 2nd The Re:Bandz!!!!
「お父さん、アタシ―――」
両手で包んだカップは少し熱を失っていた。
「アタシ、もっと真剣に音楽と向き合うよ」
父親は何も言わず、手の中のカップにコーヒーを注ぐ。
熱が、戻ってくる。
「お母さんと一緒に、アタシ達の音楽、もう一回作ってみる」
「おう。がんばれ。そんで、いつでも帰ってこい。またコーヒーいれてやるから」
アタシが『アタシ』であることは変えられない。
『小塚マリコ』の娘である事実は消せない。
これから、一生背負っていかなければいけない真実だ。
「お父さん。週末のライブ、絶対来てね」
だから、アタシじゃなきゃできない音楽がある。
「町内会みんなで行ってやるよ」
それを今、みんなで作ってみたい。
「それから―――」
父親は笑いながらコーヒーを飲んだ。
「何で今まで小塚さんのこと、教えてくれなかったの?」
「教えなかったのは、エルにさみしい思いをさせたくなかったんだ。可能性があれば会いたくなるだろ。でもきっと―――教えても、教えなくても、オマエはギターを弾いてたよ。覚えてないだろうけど、ちっちゃい頃、お母さんのプロデュースしたアーティストが出るとその曲のギターにオマエ、反応してたんだよ」
懐かしそうに思い出して父親は笑顔になった。
「―――おなかの中で聞いてたからな。サクリファイスのラストライブ」
アタシが『小塚マリコ』から聞いたのは、ラストライブで解散したほんとうの理由がリンナの母親である陸さんの妊娠だった。
「アタシもおなかの中にいたの?」
「陸さんがライブ中に解散を発表したあと、メンバーは陸さんの妊娠でそれどころじゃなかった。父親が誰かも教えてくれなかったからな。それでオレ達の話は後回しになって」
父親はまたコーヒーを口に含んだ。
「その頃はまだお母さんのおなかが目立つこともなかったから、結局そのままみんなには言わずに結婚してオマエを産んで、離婚した」
これが18年もの間、父親がひた隠しにしてきた真実。
伝説のバンド『サクリファイス』の解散にまつわる事実。
表向きの音楽の方向性の不一致ではなく、リンナの母親である陸さんの妊娠だけではなく、アタシの母親の小塚マリコの妊娠や、他のメンバーの思うところが最終的に解散という結果をみんなで受け入れた。
それはアタシが高校一年の学祭後に解散を伝えた時のように、みんなそれぞれの思いがあったんだろう。
その全ての結果が今、アタシ達の周りを取り巻く状況になっている。
「アタシのせいでもあったんだね」
「そんな言い方するなよ。あの時の決断に誰も後悔していない。今だって、こんな結果になったのは望んでなかったけれど、オマエも後悔なんてするな。前だけ向いて走っていけ」
父親の言葉はいつも力強い。
だからこそ、アタシの背中を思いっきり押してくれる。
「落ち着いたら今度、お母さんの家のお墓参りに行こう。向こうのお祖父さんとお祖母さんが首を長くしてオマエに会えるの楽しみにしてるだろうから」
『小塚マリコ』の両親は彼女が学生の頃に亡くなったんだと父親は付け足した。
「それじゃ、お父さん」
「おう。またな」
そう言ってアタシは玄関の扉を開ける。
そこにはまだ報道陣がいるのを覚悟していた。
両手で包んだカップは少し熱を失っていた。
「アタシ、もっと真剣に音楽と向き合うよ」
父親は何も言わず、手の中のカップにコーヒーを注ぐ。
熱が、戻ってくる。
「お母さんと一緒に、アタシ達の音楽、もう一回作ってみる」
「おう。がんばれ。そんで、いつでも帰ってこい。またコーヒーいれてやるから」
アタシが『アタシ』であることは変えられない。
『小塚マリコ』の娘である事実は消せない。
これから、一生背負っていかなければいけない真実だ。
「お父さん。週末のライブ、絶対来てね」
だから、アタシじゃなきゃできない音楽がある。
「町内会みんなで行ってやるよ」
それを今、みんなで作ってみたい。
「それから―――」
父親は笑いながらコーヒーを飲んだ。
「何で今まで小塚さんのこと、教えてくれなかったの?」
「教えなかったのは、エルにさみしい思いをさせたくなかったんだ。可能性があれば会いたくなるだろ。でもきっと―――教えても、教えなくても、オマエはギターを弾いてたよ。覚えてないだろうけど、ちっちゃい頃、お母さんのプロデュースしたアーティストが出るとその曲のギターにオマエ、反応してたんだよ」
懐かしそうに思い出して父親は笑顔になった。
「―――おなかの中で聞いてたからな。サクリファイスのラストライブ」
アタシが『小塚マリコ』から聞いたのは、ラストライブで解散したほんとうの理由がリンナの母親である陸さんの妊娠だった。
「アタシもおなかの中にいたの?」
「陸さんがライブ中に解散を発表したあと、メンバーは陸さんの妊娠でそれどころじゃなかった。父親が誰かも教えてくれなかったからな。それでオレ達の話は後回しになって」
父親はまたコーヒーを口に含んだ。
「その頃はまだお母さんのおなかが目立つこともなかったから、結局そのままみんなには言わずに結婚してオマエを産んで、離婚した」
これが18年もの間、父親がひた隠しにしてきた真実。
伝説のバンド『サクリファイス』の解散にまつわる事実。
表向きの音楽の方向性の不一致ではなく、リンナの母親である陸さんの妊娠だけではなく、アタシの母親の小塚マリコの妊娠や、他のメンバーの思うところが最終的に解散という結果をみんなで受け入れた。
それはアタシが高校一年の学祭後に解散を伝えた時のように、みんなそれぞれの思いがあったんだろう。
その全ての結果が今、アタシ達の周りを取り巻く状況になっている。
「アタシのせいでもあったんだね」
「そんな言い方するなよ。あの時の決断に誰も後悔していない。今だって、こんな結果になったのは望んでなかったけれど、オマエも後悔なんてするな。前だけ向いて走っていけ」
父親の言葉はいつも力強い。
だからこそ、アタシの背中を思いっきり押してくれる。
「落ち着いたら今度、お母さんの家のお墓参りに行こう。向こうのお祖父さんとお祖母さんが首を長くしてオマエに会えるの楽しみにしてるだろうから」
『小塚マリコ』の両親は彼女が学生の頃に亡くなったんだと父親は付け足した。
「それじゃ、お父さん」
「おう。またな」
そう言ってアタシは玄関の扉を開ける。
そこにはまだ報道陣がいるのを覚悟していた。