ギャルバン!!! 2nd The Re:Bandz!!!!
「シュウジ。少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」
ほどなくシュウジから電話がかかってきた。
少し胸が痛んだ。
「エル、久しぶり。どうした?」
三ヶ月ぶりに聞いた彼の声は低くアタシの耳から全身にそっと響く。
「うん、久しぶり。ごめんね。雑誌記者がそっちに行ってないかって、小塚さんが心配しててさ」
「ああ、そっか。ニュース見たよ。―――エルのお母さんだったんだよな。昔、一回だけ会ったことあるよ」
「そうなんだ。知らなかった」
アタシはシュウジのことを全部知っているつもりだった。
だけど、知らないことなんていっぱいあるんだな。
「オレのところにはまだ記者っぽいのは来てないけど、来るかな?」
「来ないとは言えないよ。だから元カレとの写真は全部捨てさせろって小塚さんが言ってた」
「そっか、大変だもんな。エルは特に不良少女だったから」
「何言ってんだよ。それはシュウジが夜中に呼び出すからだろ」
「そんなこともあったかな。もう随分前なんだな」
「もう昔だよね」
シュウジと初めて出会った瞬間の、あの全身が熱くなる感覚。
今でも忘れていない。
新しい曲、新しい歌詞に気持ちが高ぶった時と似ている。
「うん。昔なんだな。ついこの前なんだけどな」
アタシがシュウジのステージを初めて見たのが、もう四年前。
それから、
「もう、昔だよ」
それから四年も経っていた。
二人の関係が過去になるなんて思いもしなかったあの頃。
こんな結末ならシュウジと出会わなければよかったんじゃないかと思ってしまう。
「シュウジ、アタシと出会ってよかったと思ってる?」
「急にどうしたんだよ。………後悔してるのか? 今までのこと」
「後悔は、してないよ。アタシの青春を返せとも思わない。ただ―――」
「ただ?」
「シュウジは、幸せだったのかなって。アタシの幸せは、シュウジのためにギターを弾くことだったから」
何気なく自分でそう言って、わかってしまった。
「エルには、感謝してる。事故ってケガしてやる気も何にもなかったオレを救ってくれたんだから。幸せだったよ」
アタシの幸せは、シュウジとずっと一緒にいることじゃなかった。
ただ、シュウジのためだと言ってギターを弾きたかっただけなのかもしれない。
「うん。ありがとう、シュウジ」
結局、アタシはただのわがままなだけのエゴイストなんだ。
「エムとは上手く付き合ってる?」
こんな心配だってしたくはない。
エムがいなければ、アタシ達はまだ恋人でいられた。
「お互い就活だし、アイツはモデルも少しずつでも続けていくみたいだから大変だけどな」
アタシの声が出なくなったあの日、アタシはシュウジから別れを告げられた。
それだけならまだよかったのかもしれない。
エムと付き合うと言われたアタシはあの時、自分の全てを否定された気持ちになった。
「そっか。よかったね」
ほんとうはそんなこと思っていない。
あの頃みたいに泣きわめいて好きだと言えばよかったんだろうか。
ただ、そんなことはお互いのことを考えれば言えなくなってしまう。
臆病だったんだと今は思ってる。
そんなことを理由に自分の気持ちを心の遠い片隅に追いやって、いい子のフリをしていた。
嫌われたくないとか離れたくないとか、口に出してしまえばきっと楽になれるんだろう。
けれどそんなこと別れ際に叫んで何になる。
それはアタシのキャラじゃなかった。
そうやってウソをついた心がアタシの声を奪っていった。
「アタシの時みたいにしないようにね」
これは精一杯の強がり。
優越感を保つためのチープな自尊心。
アタシはフラレたんじゃない。
フってやったんだ。
そんな悲しい言い訳。
「それじゃあね。元気で」
「エル。オレさ―――」
その言葉の続きを聞きたくなくて、アタシは電話を切った。
アタシは弱い人間だ。
シュウジのことでさえ、ちゃんと向き合っていないんだから。
今では操作も慣れたスマホの画面がそっと光を失う。
と同時にもう一度、光を取り戻し彼からのメッセージを伝える。
『言いそびれたんだけど、エルには幸せになってもらいたいんだ。心変わりしたオレがこんなこと言えた義理じゃないのはわかってる。それでも、エルの幸せを願ってる。こちらこそありがとう。さよなら』
ほどなくシュウジから電話がかかってきた。
少し胸が痛んだ。
「エル、久しぶり。どうした?」
三ヶ月ぶりに聞いた彼の声は低くアタシの耳から全身にそっと響く。
「うん、久しぶり。ごめんね。雑誌記者がそっちに行ってないかって、小塚さんが心配しててさ」
「ああ、そっか。ニュース見たよ。―――エルのお母さんだったんだよな。昔、一回だけ会ったことあるよ」
「そうなんだ。知らなかった」
アタシはシュウジのことを全部知っているつもりだった。
だけど、知らないことなんていっぱいあるんだな。
「オレのところにはまだ記者っぽいのは来てないけど、来るかな?」
「来ないとは言えないよ。だから元カレとの写真は全部捨てさせろって小塚さんが言ってた」
「そっか、大変だもんな。エルは特に不良少女だったから」
「何言ってんだよ。それはシュウジが夜中に呼び出すからだろ」
「そんなこともあったかな。もう随分前なんだな」
「もう昔だよね」
シュウジと初めて出会った瞬間の、あの全身が熱くなる感覚。
今でも忘れていない。
新しい曲、新しい歌詞に気持ちが高ぶった時と似ている。
「うん。昔なんだな。ついこの前なんだけどな」
アタシがシュウジのステージを初めて見たのが、もう四年前。
それから、
「もう、昔だよ」
それから四年も経っていた。
二人の関係が過去になるなんて思いもしなかったあの頃。
こんな結末ならシュウジと出会わなければよかったんじゃないかと思ってしまう。
「シュウジ、アタシと出会ってよかったと思ってる?」
「急にどうしたんだよ。………後悔してるのか? 今までのこと」
「後悔は、してないよ。アタシの青春を返せとも思わない。ただ―――」
「ただ?」
「シュウジは、幸せだったのかなって。アタシの幸せは、シュウジのためにギターを弾くことだったから」
何気なく自分でそう言って、わかってしまった。
「エルには、感謝してる。事故ってケガしてやる気も何にもなかったオレを救ってくれたんだから。幸せだったよ」
アタシの幸せは、シュウジとずっと一緒にいることじゃなかった。
ただ、シュウジのためだと言ってギターを弾きたかっただけなのかもしれない。
「うん。ありがとう、シュウジ」
結局、アタシはただのわがままなだけのエゴイストなんだ。
「エムとは上手く付き合ってる?」
こんな心配だってしたくはない。
エムがいなければ、アタシ達はまだ恋人でいられた。
「お互い就活だし、アイツはモデルも少しずつでも続けていくみたいだから大変だけどな」
アタシの声が出なくなったあの日、アタシはシュウジから別れを告げられた。
それだけならまだよかったのかもしれない。
エムと付き合うと言われたアタシはあの時、自分の全てを否定された気持ちになった。
「そっか。よかったね」
ほんとうはそんなこと思っていない。
あの頃みたいに泣きわめいて好きだと言えばよかったんだろうか。
ただ、そんなことはお互いのことを考えれば言えなくなってしまう。
臆病だったんだと今は思ってる。
そんなことを理由に自分の気持ちを心の遠い片隅に追いやって、いい子のフリをしていた。
嫌われたくないとか離れたくないとか、口に出してしまえばきっと楽になれるんだろう。
けれどそんなこと別れ際に叫んで何になる。
それはアタシのキャラじゃなかった。
そうやってウソをついた心がアタシの声を奪っていった。
「アタシの時みたいにしないようにね」
これは精一杯の強がり。
優越感を保つためのチープな自尊心。
アタシはフラレたんじゃない。
フってやったんだ。
そんな悲しい言い訳。
「それじゃあね。元気で」
「エル。オレさ―――」
その言葉の続きを聞きたくなくて、アタシは電話を切った。
アタシは弱い人間だ。
シュウジのことでさえ、ちゃんと向き合っていないんだから。
今では操作も慣れたスマホの画面がそっと光を失う。
と同時にもう一度、光を取り戻し彼からのメッセージを伝える。
『言いそびれたんだけど、エルには幸せになってもらいたいんだ。心変わりしたオレがこんなこと言えた義理じゃないのはわかってる。それでも、エルの幸せを願ってる。こちらこそありがとう。さよなら』